2011年4月30日土曜日

「薔薇の名前」:すべてをぶち壊す音楽

本日は晴天なり。こんなのが出てきたけど、面白味に欠けるなあ。すんません。

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「薔薇の名前」映画を見た50代のおじさんから。

薔薇の名前 特別版 [DVD]

すばらしい映像で、個性的な俳優を取りそろえ、申し分のない面白さだが、あの音楽は耐えがたい。映画は時代考証を重ね、(マリア像では失敗したものの)細部にわたって手抜きなく造られている。しかし、十分なお金と必要な時間を費やしたにもかかわらず、音楽はまったくいい加減だ。最後のクライマックスシーンで、弦楽を模したチープな音を聞いたときには、思わず音を消したくなった。

単なる想像でしかないが、音楽制作者は、もう一度やり直したいと思っているに違いない。せめて、生楽器での採録をしたいと思っているだろう。

物語は14世紀が舞台になっている。私は音楽が、映像のように時代に忠実なものがいい、と思っているわけではない。劇中で歌われる聖歌については、14世紀に歌われていたと想像できるものが使われていて、雰囲気は良く伝わってくるが、BGMは役割も違うし、当時の世俗の曲を楽器の考証を検討しつつ行っても、我々のエモーションに訴えるものが得られるかどうかは疑わしい。

しかし、である。19世紀的なロマンチックなメロディーを、あの音源で聴かされるオーディエンスはたまったものではない。映像が醸し出す気分に浸れないのである。少なくとも自分には、すべてをぶち壊した、と思われた。

もともとは、映画の撮られた1980年代半ばに、古楽器をサンプリングして音楽を組み立てていたらしい。そして、できあがったものは監督の気に入らず、急いで作り直したものを採用するか、さもなくば音無しでやるつもりでいる、と作曲家に伝えたらしい。そして、急いで作り直して送られた音楽を監督がOKして、使うことになった、と監督自身が解説で明かしている。

なぜ、こんなものをOKしたか、はわからなくもない。1980年代の半ばは、FM音源のポリフォニックシンセサイザーが華々しく台頭した時代。人類にあまりなじみのなかった電子音が新鮮に思えたのかも知れない。弦楽器をよく模倣し、ゲーム機に使われていたFM音源に比べれば十分クオリティーが高い、と判断したのかも知れない

ただ、撮影から15年以上を経た後の解説で、これで満足しているとした監督のセンスは疑わざるを得ない。100万ピクセルのデジタル画像をA2ぐらいに引き延ばして十分満足だ、としている映像クリエイターのようなものだ、と思う。もしこの音源を使うなら、弦楽器の模倣ではなく、もっと聞いたことのないような音にまとめる方が良かったのかも知れない。サンプリングであるかやFM音源であるかどうか、が問題なのではなく、こころを揺さぶり得るものとしての音になっているかどうかが問題なのだ。だから、歴史的名画として残すために、音楽を採録して欲しいと強く願う。

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